釧路地域SOSネットワーク(北海道釧路市)
北海道釧路地区(人口約19万)の「釧路地域SOSネットワーク」は、警察署、市町村役場、保健所、捜索協力機関等が一体となったネットワークです。平成6年に『釧路地区障害老人を支える会(たんぽぽの会)』が中心となってネットワークを立ち上げました。
釧路地域SOSネットワークフローチャート
※1 警察からの捜査協力機関・市町村役場への協力依頼は家族の同意が必要
発見と保護のしくみ
家族が行方不明に気づき、警察や市町村役場に捜索を依頼をすると、行方不明となった本人の特徴を知らせるFAXが、警察から捜査協力機関に一斉に送られます。釧路地域の捜査には、ハイヤー協会やバス会社、トラック協会、郵便局、ガソリンスタンド等、輸送機関やコンビニ等多くの生活関連企業が協力しています。さらに、地元FM局(FM釧路)が、放送で30分毎に一般市民にも呼びかけます。市町村役場からは、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所、地元消防団などにも協力を依頼します。
無事保護されると警察から家族に連絡され、同時に協力機関へ捜査解除の連絡がおこなわれます。本人に身体的・精神的な問題がある場合は、協力医療機関が対応しています。 発見後の家族への相談や支援は、市町村役場や地域包括支援センター、保健所が協力して行っています。釧路市では、毎年30~50名が釧路地域SOSネットワークによって保護されています。
平成20年度のネットワーク利用状況
捜索依頼数 | 発見・保護件数 | 死亡者数 | 未発見者数 |
52件 | 44件 | 3件 | 5件 |
ネットワークを立ち上げるきっかけになった出来事
釧路地区障害老人を支える会(たんぽぽの会) 会長 岩渕 雅子
平成2年4月朝、たんぽぽの会の会員の母親(79才)がいつものようにゴミ出しに出たまま帰らず、4日後に遺体で発見されました。
1日目、行方不明後家族は八方手を尽くし、警察にも届け出ましたが「家出人」として扱われ捜索されず、2日目はまったく手掛かりはありませんでした。3日目には地元新聞2紙に「尋ね人」広告を出しました。そしてついに4日目、自宅から3km離れた市街地のはずれで遺体で発見されました。
のちに点でつながるご本人の足跡を辿ってみると、2日目早朝、母親は自宅から2km離れた自動車部品会社の横でうずくまっているのを目撃されていました。その時事務所のトイレを借りたようですが、中々出てこないので心配した女性事務員が声を掛けていました。次に、そこから1km離れたバス停で座り込んでいる姿を、近くの店の主人が目撃していました。「バスを待っているのか」と思って見ていたそうです。3日目、新聞の「尋ね人」広告を見た自動車部品会社から連絡を受け、警察も動き出し、夕刊にも「老女行方不明」と載りました。4日目10時過ぎ、釧路湿原のはずれの資材置き場の陰で、ダンボールを敷き、履いていたサンダルを揃え、ダンボールを掛けて横になったまま亡くなっているのを、犬の散歩中の主婦に発見されました。検視の結果、疲労と寒さによる心不全。前夜10時半ころ死亡とのことでした。
この結果から、トイレを借りに寄ったり、ダンボールで寒さをしのぐという生活の知恵がありながら、「道に迷った」として他人に助けを求めることが出来ない認知症の人の本当の姿、まだ雪のちらつく4月に3日間も彷徨っていたのだという事実を前にして、他にも多くの認知症の家族を抱えていた私たち会のメンバーは大きな衝撃を受けました。そしてこのことが釧路地域SOSネットワークを立ち上げる直接のきっかけとなりました。